
Artist : 佐藤允 / 画家
1986年千葉県生まれ、現在は東京を拠点に制作。2009年に京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科先端アートコースを卒業。
主なグループ展に「第8回光州ビエンナーレ」(2010)、「ヨコハマトリエンナーレ 2011: OUR MAGIC HOURー世界はどこまで知ることができるか?ー」(2011)、「Inside」 (パレ・ド・トーキョー、2014)、「堂島リバービエンナーレ2019」(2019)などがある。
作品は高橋龍太郎コレクション、ルイ・ヴィトン・マルティエに収蔵されている。
TH: (周囲の作品に目を向けながら——)ここらへんにあるものも、作品?
AS: 作品というか、制作は制作だけど、仕事じゃない絵を書くのも必要だから。
TH: 趣味も絵だもんね。
AS: そう。本当にもう仕事したくないと思って、描いてたりする(笑)。ちゃんと外出する時は、良い洋服着て行ったとして、帰ってきたらどうしても今すぐ描きたいっていう時がある。その時は、服を脱ぐのも面倒くさくて、外に着て行ったもののままやっちゃう。で、結局ちゃんと汚しちゃう。これとかは……
TH: 完成してないの?
AS: してると言ってもいいんだろうけど、いや、この側面の辺とかできてないでしょ。早々に3年前だよ。
TH: その時のムードとか、勢いとかもあるから。もう一回やるっていうのも……
AS: そうそう。完成してないのもたくさんあるよ。でも、ソールドになっているものとかもあったりしてね。
TH: ファッションにはあるけど、往々にして作家自身が満足し切ってないものの方を人が好きだったりしない?
AS: どうだろう。そういうことってあるのかな。
TH: ファッションは、コレクションを構成する要素としてMDっていうものがある。僕もそうだけど、マーチャンダイジングを基盤にする大抵のファッションデザイナーって最初に濃密なやつを描いていって、やりたいものをやって、それを派生させていくんですよ。つまり、本当にやりたいことを薄めたものが出てくるわけで、その薄めたものほどいろいろな人にとっても着やすいというのは事実。
AS: うん、そうだね。
TH: 作家性が強くないものほどモノとしては着やすいし、プライスも安くなる。だから、自分が「これ出していいのかな」と勘繰るぐらいのモノの方が売れがち。というか、ファッションは強制的に販売されちゃうからさ。
AS: 重なることは、ギャラリーとかにもある話だよね。モノに溢れているから廃棄しようとすることもあるけど、ギャラリーの人はアトリエに取りに行きますとか言うのね。(未完成のものでも)売れるからとかなのかわからないけど、「残しといてね、貴重な資料になるから」と言うかもしれない。でもね、今から俺がなんか革命的な絵を描いて、「それはこの時期のものだった」と文句して、その価値が生まれるとかあるわけないと思う。それは過去だって。もうそんな時代は来ないよ。だから俺は、みんな結構、夢見てんだなと思う。いつかは自分がそんなに脚光を浴びると思ってるんだと思っても、そんな時代は来ないよと。それってつらくない?と思うの。太郎くんは、まだファッションってかっこいいなと思う?
TH: 難しいね(笑)。僕はもともと、ファッションへの憧れ自体が強いというわけではなかったけど……
AS: たとえば、すごい好きなデザインナーが引退しちゃったりとかするとどうなんだろう。
TH: 今は、憧れているデザイナー自身が葛藤しているのさえ見える時代でもあるからね。
AS: 俺はずっとヴィヴィアン(・ウエストウッド)が好きだったけど、本人が亡くなったら、もうなんか微妙に思っちゃう。ブランド自体も何の興味もなくなっちゃったよ。だから、結局は“人”だったんだなと思うし、それが面白いとも思った。ファッションは、旗を振ってる人を知らないと急にださく見えたりするから不思議だよね。でも、大メジャーじゃなくてよかったのは自由なことできること。無責任なことだったとしても。
TH: うん。すごいインディペンデントでいいんだと思うんだよね。
AS: たとえばさ、今からデザイナーになる時に「自分はガリアーノみたいになりたい」と言ってなれるわけないじゃん。どれだけ丁寧にリサーチしても絶対になれない。川久保玲さんみたいに、とかも無理。川久保さん自身はいるし、川久保さんに“近くなったもの”は全部吸収して食べちゃうでしょ。だから、何か、そういうような夢を見るより、淡々と自分の仕事してた方がいいような気がする。
TH: そういう意味でも、自分の好きなものをやる、みたいなことは、もうすでにすごくアナログなことになっている。だからこそ、いつの時代も残っていくものがあるんじゃないかとは思う。
AS: 自分が破滅的だからというわけじゃないけど、(イヴ・)サンローランもすごい好きなんだ。でも、好きすぎて見れない(笑)。彼も、破滅的じゃない。
TH: しかも、あの時代特有の、艶やかなのに壊滅的な……
AS: おそらくサンローランは美しさに溺れたいんだけど、彼自体がコンプレックスの塊でもあるじゃない。結局、自分の中の美意識と、現実の狭間にいた人でもあるよね。
TH: そうだね。なんというか、目がすごいよね。晩年も変わらない、あの目つきに全てが詰まってる。
AS: そう。俺、実はね、ピエール・ベルジェの誕生日プレゼントを作ってくれないかと依頼が来たことがあるの。俺の人生の中に“ベルジェ”っていう言葉が出てくること自体がすごいなとは思ったけど、もうその時ぐらいに亡くなっちゃったんだよね。
TH: へえ!すごいね。ベルジェがなくなったの8年前ぐらいか。
AS: そう。俺は映画とか観てないから詳しくはわからないけど、ベルジェって美術家のパトロンでもあったし、いろいろな美術家を狂わせていたと言うのも有名。
TH: 狂わせてた?
AS: うん。アーティストを破滅に追いやる人だったというと言い過ぎかもしれないけど。ベルジェは幸せだったが、他の人たちはどうだったのか……。ファッションもまた、ああいう時代は終わりな気がするけど。
TH: まあね。デザイナーっていう存在自体が本当に末期なのはある。
AS: マーク・ジェイコブスのドキュメンタリーがすごい流行ったりして、彼もまた破滅的なデザイナーの一面があった。でも、あそこぐらいまでなのかな。ファッションを介して求められるものが変わってる気もする。
TH: ファッションの市場や産業も含めて、大きくなりすぎたというのもある。もはや、ファッションだけじゃないからね。一番求められているのが、デザインや品質とかでもなくなってる。
AS: どういうこと?
TH: 簡単に言えば“流行らせること”がメインに置かれていて、服を作ることは二の次になってる。本質的なものづくりよりも影響力を持つことの方が重要視される時代に移っていて、“インフルエンス”がビジネスの中心になっている傾向はある。
AS: わかりやすい。すごいよね。とっくの前から美術もそっち側に向かってる。“何か分からないものじゃない”方がいいんでしょ?
TH: でも、デムナ(・ヴァザリア)の、上海のショーはかっこよかったですね。
AS: 「デムナ」っていうブランドがあるの?
TH: ううん。「バレンシアガ」。大雨の中で敢行されていて、普通だったらキャンセルするだろう状況下だった。コレクションの内容だけでなく、そういう判断もふまえてちゃんとかっこよかったな。インフルエンスを作りながら、クリエーションもやっている数少ないメゾンなんだと思う。
時代の変質と、人間の仕事。
AS: 仕事と人の考えと……というとさ、結局それを代替するソフト、たとえばChatGPTが使えちゃったら、もう本当にいらない人(材)も多いんだって。ChatGPTは、早いし、しかも、育てることができる。それで最終的に確認することだけを人が担って、ってこともあるよね。
TH: 当然、あり得るだろうね。最近、ChatGPTで契約書を作ったのね。今までは、どういう業務でどういった内容の契約書を作りたいんですと弁護士に相談していたんだけど、試しにやってみた。ChatGPTに、どういう役職を、こういう条件を網羅するように契約書を作ってくださいと指示をしたら一瞬でフィードバックがある。さらに、少しの修正指示を何回かやるだけでほぼ完成してしまう。ものの5分くらいだったよ。
AS: たとえば、企画書もそうだよね。そもそも見る側に立っても、適当なことを雰囲気で書き並べても通っちゃいそうだよ。だから、自分も含めてさ、それらしくなってる……みんながみんな本当に馬鹿になってんだなと思う。文献だとかもネットにある情報やパソコンで打ち込まれたものは間違ってないと思うんじゃない? “企画書”って形で出てきたら。
TH: あり得るよね。本当にコンピュータとかAIがちゃんと自分で考えるようになったら、嘘を混ぜ込んでくるだろうし。
AS: でも、本当は、美術も、もしかしたらファッションも多分、突き詰めると多分数学の世界に行くでしょ。美しいから。
TH: うん。
AS: そうなってくるとさ、どれぐらい“人間ぽさ”を残すかもあるよね。たださ、コンピューターとかAIが世界を壊すみたいことは、すごい昔から言われてたわけなのに、なんで作ったんだろうね。人を滅ぼしますくらいのこと言ってたのに。すごい謎。
TH: それしか生き残る道がないからでもないしね。
AS: 人が生き残るって衣食住でしょ。だから結局、人件費の問題でしょ。そういうのを発展さしちゃって、人を少なくさせる未来を優先したいんだね。
TH: 人を減らしたいのかな。そうすると労働力足りないから、効率を選択し、AIによって埋めようとしてる?
AS: 俺はレベルとかどっちでもいいから、コンピューターが本当に安い洋服を作ってくれるのであれば、それを愛用するかもね。
TH: 「ユニクロ」はもう生産の自動化は部分的にしてるもんね。一長一短なわけじゃないけど、人がやって生まれると言う過程にロマンが出てくる。
AS: うん。
TH: だから今、人が手で縫うような服はそのうちクチュールみたいな存在になるかもしれないよね。一生懸命手で作ってるやつのが最強な感じになってくるのかな。アップリケとか。あげくには、「これミシンで作ってるらしいよ、すごいね」みたいな(笑)。すでにニットはそうなってるし、布帛のちょっとしたものだったら、自動裁断と自動縫製もしくは縫製不要なものにとって変わる可能性はなくはない。“縫製されてるもの”が貴重になったりね。
AS: 今回の太郎さんのプロジェクトで、こういう仕事が一番いいと思ったのは、ロゴのところに俺の絵が入ってるでしょ。たとえば、「これとこれで、こういうものを描いてもらえませんか?」と無責任に言われるのがすごく嫌で、そういう横暴な仕事相手って多いの。でも今回、そのタグの絵には一切関与していないし、太郎さんが探してやってくれた。
TH: 今回は特に、僕たちの関係性があるからできるよね。日常的にやりとりをしていて、これが合いそうだなというのが自分にもあるから。面白がってもらえそうと発想もできる。
AS: そうだね。少しの話で済んだりして。サインの位置はここで良いとか、もう決まってたのもすごい。
TH: 「ですよね」ってなれる感覚。それが共有できている。
AS: だって、そもそも「それって、あなたのものでしょ?」と思うの。なのに責任を押し付けてくる人が多い。責任の所在を曖昧にしたいビジネスマンは、「これはお前がイエスと言ったんだ」とでも言いたいのかな。愛はどこにあるんだろう、と思う。本当はそれを良くするためにあればいいのに、何か逃げ道を作りながらやられているのを感じることは少なくないから。
TH: あるよね。「やっといて系」。難しいバランスではあるけど。
AS: 本当そう。そういう人にかぎって「起用した俺がすごい」みたいな態度だったりするしね。でも、やっぱり、みんながひとつの仕事をしてるという感覚みたいな時が、本当は一番良いよね。自分の名前を出したがって「俺が作ったんだ」みたいなことじゃない。
TH: うん、すごくわかる。
AS: だから、今回のつなぎとエプロンも、“太郎さんが俺のために作ってくれた”ということが始まりだとしても、いろいろな人が着て、改良というか、想定したこととは違う活用方法が発見されたりっていうのが理想でしょ。允くんこんなこと考えたの? みたいなことじゃなくて、結局はその服を楽しんでもらえたらいいだけの話。俺は個人的にこれは何処どこに着て行きたいなとかがあるだけで、それぞれに、そういう楽しみがあればいい。ユニセックスなんだし、誰が着てもいいしね。あとは、今回一番面白かったのは、太郎さんの仕事をしているのを見れたことかな(笑)
TH: (笑)。允くんはさ、年々新しい挑戦するから、面白いよ。
AS: お金になる仕事しかなくて、それも結局誰かのために動いているって時あるじゃん。限度はある。でも一応、ある種の責任を持ってね。
TH: ぐっとやりたいものじゃなく、ね。(壁にかかった大きなグラフィックをみて)これは100号くらい?
AS: そうだね。画材も異常に増えていく一方だから、とにかくここ(作業するスペース)をまずは片付けたいね(笑)。テーブルと棚を動かして……そうしたら大きい絵もできる。
TH: 次のシリーズも楽しみ。
AS: 結局のところ、ただ絵を描いてるだけなんだよ。ちょっとずつ、ちょっとずつ。
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