
Artist : 朝吹真理子 / 小説家
1984年、東京生まれ。2009年、「流跡」でデビュー。2010年、同作で第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で第144回芥川賞を受賞。他の著書に『TIMELESS』(2018年)など。
2017年、自作小説の朗読で仏ポンピドゥー・センター・メス「Japanorama : A new vision on art since 1970」展に、2023年、アンビエントをテーマにした視聴覚芸術の展覧会「AMBIENT KYOTO 2023」に参加。
堀内太郎(TH):朝吹さんと佐藤允くんと僕は、本当に頻繁に会っていて、連絡もほとんど毎日、密に取り合ってるよね。グループラインも日によっては、100回以上のメッセージのラリーがあることも。
朝吹真理子(MA):そう。あたると三人で兄弟的になっていて、ラインで毎日「おはよう」と「おやすみ」を自然と言い合うのはおかしいと太郎さん誰かに言われていたよね(笑)
TH:そうそう。本当に、関係性の密度が高い(笑)。でも、僕たちが初めてちゃんと会ったのは一体いつのことだったっけ?
MA:実際に会うよりもずっと前から、共通の友人がたくさんいるから、太郎さんの話はいろいろなところで聞いていたのね。互いに存在を認識はしていたけど、漠然としていたと思う。私は、太郎さんと出会う前にお洋服を買っていて、最初期のTARO HORIUCHIの、ネイビーのウール地のストレートパンツと、モコモコしたネイビーカーディガンを持ってるんだけど、どこのセレクトショップで買ったのかは覚えていなくて。たしか、まめちゃん(Mame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子氏)から、太郎さんの話を聞く機会が何度かあって、「いつかお会いすることあるかな」って、予感めいたものはあったんだけど、すぐにご一緒する機会はなかったよね。
TH:たぶん、2016年か17年頃だったかなあ。今はCFCLを手掛けてる高橋(悠介)くんのホームパーティーで会ったのが最初だったような気がする。でも、その時は本当に人がいっぱいいて、ゆっくり話ができる状況ではなかったよね。
MA:そうそう。まだ高橋くんがISSEY MIYAKEにいた頃。彼のホームパーティーでほんの一瞬だけ会ったんだけど、太郎さんは30分くらいで帰っちゃったから、ほとんどお話できなかった。その後、改めて、しっかりお会いする機会になったのが、私の『GINZA』での連載の第1回目の取材で、thの写真を撮っているロナルド・ストゥープスさんの展示をしている太郎さんの千駄ヶ谷のギャラリーを訪ねたときだった。
TH:それが、たしか7〜8年くらい前のことになるんだね。
MA:うん。ちょうど新しくthが始まるタイミングで、『GINZA』の担当編集の方が「多分、thのお洋服、すごく好きなんじゃないですか」と声をかけてくださって。それでギャラリーを訪ねたんだ。床のタイルが水で濡れたみたいにピカピカとしてて、すごく綺麗に黒のお洋服が並んでいたのを今でも鮮明に覚えてる。
TH:そういえば、実際に朝吹さんにお会いする前だったか、あるいはいつ頃だったか、正確には思い出せないんだけど、雑誌『ハイファッション』の編集者だった西谷(真理子)さんから一度、「太郎さんの服、朝吹さんにすごく似合うと思いますよ」と言われたことがあったのは覚えてる。
MA:知らなかった。西谷さんは、私が初めて小説を書いたときに、最初にインタビューしてくださった方のお一人。新聞などではなく、ファッション雑誌(オンラインだった気がする)にインタビューが載るとは思っていなかったから、びっくりしたの。まだ『ハイファッション』に在籍されていた頃だったと思う。
TH:『ハイファッション』や『ミスターハイファッション』は、僕にとって本当に教科書のような、大切な雑誌だったんだ。……朝吹さんは知っての通り、僕は、あまり本を読まないんだよね。
MA:太郎さんは記憶力の容量が……これは私に言われたくないだろうけど(笑)、少ない、というかユニークなところがあって。かなりまだらなんだよね。でも、異常に細かいところを覚えていたり、信じられないくらいまるっと忘れている場合もあって、両極端ね。
TH:そうなんだよね。たまに僕の脳のキャパシティは50メガバイトくらいしかないんじゃないかと感じるんだよね(笑)。容量が常に、ほとんど残ってない状態。すごくビビッドで絶対に消しちゃいけない大切な記憶で既に脳の容量の8割くらいを使ってしまっていて、残りのわずかな部分で現在のできごとをやりくりしてるような感じ。忌々しい出来事なんかは、都合よくすっと消えてしまう機能も備わってる。でも、もちろん、現代でもビビッドな体験は日々あるから、ちょっとずつ記憶を差し替えてるような感覚(笑)
MA:ちなみに太郎さんはわたしに映画を教えてくれた人でもあります。私は閉所恐怖症で映画館が怖いのだけれど、太郎さんが本当に映画狂で、すごい頻度で映画を見ているのを知って。太郎さんが吸い込まれるように映画館に行って、またスーッと仕事に戻ったりしてる、その軽やかな感じがいいなって。それで、太郎さんおすすめのものをついていって見に行くようになった。ちょうど渋谷でタルコフスキーのまとまった上映会があった時は、元々タルコフスキーは大江健三郎さんもすごく好きだとおっしゃってたし、映画館でみてみたくて、どうしようかな、と思ってたら、太郎さんも「見に行きたい」と。それで一緒に通ったのも、すごく楽しかった思い出。
TH:趣味を交換してる、っていうよりは、僕たちの(画家の佐藤允との)グループラインで行われる、あの激流みたいな、だけど僕たち3人にしかない関係性だからこそ生まれる自然な会話のなかで、色々なことを共有してる、っていう感覚はある。というより、もはや公私の情報を共有しすぎてる、と言った方が正しいかもしれない(笑)。まだ出会って10年も経ってないのに、この密度だからね。
MA:まだ形になる前の、それぞれの制作過程の話も、本当に頻繁にしているしね。太郎さんは、何かを見る体力が本当にすごいな、って思うことがある。読む集中力、あるいは何かを見る集中力って、人によって特化してるものがあると思うんだけど、私は長く文字を読むことには慣れがあって、でも一日に違うものを連続でみられない。一方で太郎さんは、色々なものを一気に吸収する力があるように感じる。例えば、旅行に行ったりすると、允と私は部屋でへろへろ、ぼーっとしてる時間が多いんだけど、太郎さんは、詰めて、すごい勢いで動き回って、そこでたくさんの物事や発見を得てるんだと思う。
TH:ああ、それはあるかもしれない。たくさん吸収しても、最後に脳の中で濃縮されて1滴か3滴程度で容量は少ないけど、量はものすごく吸収する、っていう不思議なサイクルで。
MA:あと、允と3人で一緒にいるときに特に強く感じるのは、太郎さんは多く本を読まないと言うけど、私が本を書いてる、っていうこと自体をすごく尊重してくれること。そして、私はファッションのことは詳しくわからないんだけど、太郎さんが作ってることに対して尊敬の念を持ってる。そして、允が作ってることに対しても同じ。
TH:ピースフルな均衡だね。個々のキャラクターは非常に濃いんだけど、お互いへのリスペクトで成り立ってる、不思議なバランスだと思う。
MA:……こうやって話し始めると、なかなかお洋服の話にならないよね(笑)。
TH:(笑)。本当にそうだね。でも、それくらい、すごいコミュニケーション量があるから、允くんとのワードローブもそうだったように、実は朝吹さんとの話はLINEでのやり取りでほとんど完結してしまってる。今行っているこの対談は、時間を遡るようなかたちになるし、明確な特定の出発点があるわけではないんだけど、朝吹さんにとってのワードローブっていうことで、純粋に「執筆するときに着るものは?」っていうスタートだったと思う。やっぱり、執筆のプロセスに深く関連するものが、きっと朝吹さんにとって一番良いだろうと。結果から言うと、“パジャマ”になったわけだけど。
MA:うん。家で心地よく着られて、なんなら、そのまま外にも着て行けたら最高。
TH:基本的には、“窮屈じゃないもの”が良い、っていう話もあったよね。
MA:体を意識する服だと、書くときにじゃまなの。書いているとき意識のスピードの方が肉体よりはやくて、いつも追いつかなくて、体の制限が外れたらいいのにって思っているので。体に負荷や制限があるものはあまり着たくない。
TH:普段、小説を書く場所は、どこが多いんですか?
MA:家の小さな机と、外。カフェっていうよりは、喫茶店に行くことが多いです。
TH:なるほど。その喫茶店に行くときは、普段どういう格好してるの?
MA:うーん。バッグが大きくて紙束持っていて、だるだるっとした感じ(笑)
TH:単にカジュアルっていうわけでもないんだよね。例えば、デニムとかでもない?
MA:デニムも履くことはあるけど、ちょっとかたいの。大事なのは「着ていることを気にならない」っていうこと。あと、綺麗すぎる素材、っていうのが合ってるかわからないんだけど、集中してボーっとなったりすると、うっかりインクをこぼしたりすることもあるから、あまりにも繊細な素材だと気を遣っちゃって。
TH:なるほど。では、お家で執筆するときはどう?
MA:Tシャツやパーカーはあまり着なくて、やっぱりパジャマがすごく好きなの。パジャマで一日いたいよ。
TH:ああ、そこから来てるんだよね。
執筆と眠りの接点。
TH:パジャマが特別に好きなのには、何か理由があるの?
MA:眠ることが私にとって非常に大切だから。小説を書くために眠らないと。
TH:今書いている小説も、それに関係してるよね。
MA:小説のタイトルは『ゆめ』。毎日、主人公の男の子がお布団の中に入ると、なぜかお布団の向こうから海がやってきて、足の裏に水がちゃぷちゃぷと当たってきて知らないところにいつもいく。それが正夢だったり誰かの夢だったりしていて。
TH:2025年の夏に出版予定なんだよね。
MA:そう、本が出る予定。パジャマがいいなって思ったのは、『ゆめ』を書いているから。あと、書くために眠る。寝るときの服は私にはとても大切。書くときって潜水をしているような気分なのだけれど、眠っていないと、体が小説のなかで溺れそうな感覚になる。
TH:よく眠れないと書けない、っていう感覚があるの?
MA:書けない。特に、夜遅くまで集中してカーっとなって書いてしまうと、次の日は疲れ果てていて全く書けなくなったりもする。ひどいときには3日くらい疲れて書けないこともあるから、なるべく規則正しく早めに寝ようと思っているのね。
TH:それは昔からそう?
MA:うん、そうだと思う。よく眠らないと何も考えられないタイプ(笑)。寝る前まで小説のことをずっと考えていたとしても、その後にちゃんと深く眠れたときって、夢が教えてくれるような感覚がある。よく眠れた次の日は、書くのに集中できる。規則正しい方が小説にいい。
TH:なるほど。どこか分かる気がします。規則正しく寝て、規則正しく書く、っていうスタイル。
MA:そう。まあだらしないので規則正しく思っていてもそうならないのだけれど。でもとにかく単純に眠るのが好き。あと心地よさで大事なのはくたくたっとした感じで、たくさん着て、何度も洗濯して、たとえ繊維が弱くなってきても、そのお洋服がじぶんのものになった、っていう感覚も好き。だから、今回のパジャマに関しても、せっかく太郎さんが作ってくれるなら、本当にたくさん着られるものが良いなって思ってた。朝起きて顔を洗って、そのまま喫茶店に行って執筆できるような……そういう服だったら最高だな、って。
Artist Wardrobe Product
Sleeping Shirt (Artist Wardrobe / MARIKO ASABUKI ) / black × white
¥45,100
スリーピングシャツ アーティストワードローブ / マリコ アサブキ。
洗練された光沢が特徴的なエレガントで上品なアセテート素材のシャツ。持続可能な方法で管理された、松やユーカリの畑から調達された原料を使用した、イーストマン社のアセテートを使用しております。タンブラー加工を施すことで、馴染みやすい光沢感のあるサテン素材です。
前シーズンより始まったアーティストワードローブシリーズ第2作品目。今回はthとゆかりのある2人のアーティストとそれぞれのユニフォームを一緒に製作しました。「小説家」の朝吹真理子氏とはスリーピングウェアを上下で製作。ゆったりしたシルエットで肌触りの良いアイテムとなっています。セットでは勿論、単体でも合わせやすくなっています。
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