
Artist : 中村圭佑 DAIKEI MILLS / デザイナー
「DAIKEI MILLS」「SKWAT」代表。多摩美術大学環境デザイン学科 非常勤講師。CIBONE、ISSEY MIYAKE、NOT A HOTEL、LEMAIRE、kontakt など商業空間や公共施設などのプロジェクトを通じ、人と空間の在り方について一貫し考え続けている。
2020年からは都市の遊休施設を時限的に占有し一般へ解放する運動「SKWAT」を発足。
TH: 圭くんは、モノを作ることによって何を目指しているんだろう?
KN: いろいろあると思うけど、今の段階だと社会が少し変化していくこと、になるんじゃないかな。自分が発信することで何かの価値が変わる。
TH: 自分が接点を持ったことによって何かが起こる。
KN: そうそう。今までにない価値観が生まれたり、既存の価値が全然違うものに変わったりだとか。
TH: 自分で自身の作品を「こういうものです」と言える?
KN: 「SKWAT」で言えば、活動の趣旨が、世の中に溢れているvoid(ボイド)という隙間に新たな価値を投下してその価値転換を起こすこと。その手法は、建築、レクチャー、ラジオ制作、出版といろいろなメディアを使うんだけれど、媒体は問わず活動を通して価値転換を起こすことをベースにしている。だから逆に、その都度変わるから、それ以上言えることはない。
TH: 起こる変化は違えど、毎回voidに対してのアプローチは一貫していると。
KN: 仮にもうちょっと焦点をミクロに合わせ、什器や家具の話になった時も同じ。パンクの精神がベースにあり視点を他人と違うところに持っていく。「このパイプを“普通”ならこう使うが、こうしたらどうなるか」みたいな考え。正統派ではない。すべての着眼点をちょっとずらすのはもう癖になっちゃっているし、それが自分の当たり前でもある。
TH: (「twelvebooks」のスペースの写真を指して)これまだあるの?
KN: もちろんある。これは一番気に入ってるかも。デザインでなく行為としてコンセプチュアルだった。要は、デザインをどこまでデザインせずにいけるかという方向に向かうと、どんどん民主化して“みんなのもの”になる。いわば“公園”のようなものを作りたいという概念がある。そういう時に自分がエゴイスティックにこれを作りたいというのはもう駄目。じゃあ何ができるかと考えた時に、「補修」という作業だけで完結できる場所が作れないかと思った。 補修は色を以前のものに合わせて跡を残さないというのが通常のやり方だけど、そこに真っ赤な色粉を混ぜて可視化させた。「誰がデザインしたかわからない」という、多分この辺の発想は自分の昔の美術的な感覚がどんどん強くなってきているかも。
TH: プロセスで必要になったものには、広義の素材が関係してるとことですね。
KN: 最近、イメージ通りにできるんだよね。むしろイメージを超えるというか。逆算方式で作る場合もあって、たとえば「この空間が与えられました」「この空間に最低限必要なものと何だろう」という時に、まず空調が必要。そして光がないと駄目だから照明を付ける。それらを設置するに足場が欠かせないが、それを運んでくるために傷つかないよう何かガードしなきゃいけない。ということは、建物を傷つけちゃいけないための“材料”がキーになる……という逆算。そういう必然性にのっとって、僕らが意図的にこうした、という要素を極力避けようとしている。
TH: 考えるのは相当に苦労しそう。これからの活動で、何に一番興味を持ってるんですか?
KN: 教育じゃないですかね。「SKWAT」の活動と、基本的に社会と接点を持って、その社会の価値転換を起こすという話は、人それぞれの教育的な背景を問わず、教えていく・気づきを与えるという部分だと思っている。そういう意味での教育的な部分に興味がある。わかりやすく言うと、教育コンテンツ。
TH: 面白い。そこにも一貫性がありますね。
KN: 話は逸れちゃうけど、福岡で美大を作ろうと思うんですね。いわゆる“美大”じゃないかもしれないけれど、長期的な視点で動いてるところ。福岡には芸術系の大学がない。でも、あれだけ独自のカルチャーがあって街として完成されているところで“技術“を学ぶのはやっぱりいいと思う。その美大で、僕らの周りの人たちがチューターしてくれるというのを10年後ぐらいにできればいいなと。その布石として今、多摩美をやってる。
TH: それで言うと、ここのがっこうの(山縣)良(和)くんとマインドは近いね。教育はやっぱり一つのキーワード。日本の学校では教えられない思想的な部分を、ヨーロッパの学校は重要視するよね。
KN: そうなんだよね。技術は、後から社会人でやれば身につくし。
TH: 向こうは分業制というか。デザインを考える人と作る人は別だから。
KN: 今は、段々とそれらも一緒になってきてる感じはあるけど、流れ的に。
TH: ちょっとプリミティブになってるよね。職人イコール「作る」、デザインも最初から最後までやる。
デジタルに置き換わるもの。
TH: ちなみに、昨日も蓮沼くんとも喋ったんだけど、超デジタル化されてくる中で、これからの業界はどうなっていくと予想しますか?
KN: 率直にいえば、潰れると思うよ。たとえば建築家、認定デザイナーだとか、なくなるんじゃないかな。確実に。
TH: もうSpotifyがAIにさくっと作らせたアンビエント音源がリリースされてるんだと。ものがいいということに帰結するのであれば、それはそれでいいんだろうし。だからデザインする人もいなくなってくるよね。きっと。
KN: 逆に言うと、職業が増えすぎたんじゃないですか。いろんなところにお金が投資されてきたけど、それがもう1回整理されるというシンプルな方に戻る。飽和していて、戻そうみたいな力が働いていく。
TH: 「この人じゃないとできない」という職業以外は、基本デジタルが得意じゃない。デジタルじゃできないということをできる人が相当少なくなってくるから、むしろ働くことを許される人はものすごく特権なんじゃないかとさえ思えてくる。SpotifyとかAppleとかトヨタとか、テスラだとかああいう会社だけが存在してて、他はベーシックインカムでその人たちが払う税金によって生きる……
KN: 共産国でしょ。そうだと思うよ。そうなるんじゃない?
TH: うん、そうかな。やっぱ僕もそう思うんだよね。蓮沼くん的には、「ギリギリ僕らの時代は大丈夫じゃないか」みたいに言ってた。
KN: 死ぬまでかは難しいけど。全力でやるって70歳ぐらいまでだから、30年ぐらいとなると逃げ切れるよね。職業がなくなると人の名前しかなくなるね。間違いなくね。
TH: そうだね、誰が何をやるとかじゃない。「この人の職業は建築です」とかそういう世界じゃない。ただ、技術的に30年だと全てのプロセスをデジタルで、とはなってないか。
アイテム製作
TH: さて、本題ですが、何を作りたいですか?
KN: 明快にあるよ。「th」と同じで、最高なデイリーウェアを作りたい。もう、本当に同じ服でいい(笑)。ズボンも下着も。ただ、上だけはたまに変えたいから、そういう意味で本当に作りたいのは靴、靴下、ボトムス、下着。常に着られるもの。あとは、完璧なジャケットも見つけたいと思っているけど……見つからないわけ。
TH: 「th」は基本的には僕の生活の中で選んだものだったり、こういうものが欲しいなといったアイテムがベースにある。だけど、今回のプロジェクトは、圭くんや他の作家さんが思うものだから、アームホールの大きさも圭くんに合わせて作る。それをそのまま売るのか、「th」風にちょっと直して売るのかどっちかだけど……。やっぱり僕の今までの制作のプロセスで言うと、僕のサイズ感覚や思想感にフィットした人しか買えないじゃん。
KN: なるほど。でも、「th」を昨日着てて思ったけど、僕の体型と太郎くんの体型は全然違うけど、着れる。「th」には、そういう感覚を持ってる。自分の趣向の全部に言えることかもしれないけど、ストリート性がちょっとある一方でエレガンスさも必ず持っている、そういう対極のものが存在するというのが好き。このパンツは、「ディッキーズ」の874。股上がちょっと深い。やっぱりディッキーズとこの丈感でストンと落ちるし、センタープリーツだから綺麗に見える。でもワーク的な感じで現場で何か作っていても全然気にならない。これは少しスケーターっぽい仕様にもなってるね。
TH: 後ろポケットは……普通に二つか。「VAINL ARCHIVE」とのコラボで、何が変わってるんだろう?
KN: 股上だと思う。やっぱり綺麗なスラックスだと現場とかで気にしなきゃいけない。
TH: もちろん環境の問題があるよね。ハードにしゃがんだり、膝が擦れたり。そういう観点で、素材の選択の差が出てくるのは面白い。
KN: 最悪、汚れてもいい。だから、最強のデニムをずっと探してた。でも、自分が頭に描いているような綺麗にストンと落ちるデニムって難しいのかなと。Dickiesのこの生地はいい。デニムでできるのかな? 綺麗にストンと落ちるみたいな。ちょっとフレアにしてるとかはあり得るのかな。
TH: 形状の話の可能性もあるよね。もうちょっとテーラードよりの形状にすれば、圭くんが言っている形にはより近くなるだろうね。でも、ファブリックが高密度じゃないと膝が出たりするじゃん。それは嫌なんでしょう?
KN: それがやっぱり嫌。単に形が変わっちゃうから。しかも、今これすごいカジュアルに使ってるのに、羽織ると割と綺麗な感じにもなる。
TH: それこそディッキーズでセットアップが作りたいとか?
KN: セットアップでもいいけど、どっちでも。
TH: じゃあ、Tシャツは? 僕はサーマルが大好きだから、ずっとこれ着てる。
TH: このTシャツはどこの?
KN: これは「グンゼ」。僕はインするから下だけ長くしたいとか、収めやすいとかがあって、リブを強くしたり、そういうこだわりがいっぱいある。もう20枚ぐらいあるかな。
TH: ルーティンで駄目になったらそれで新しいの買ったり。
KN: そうそう。大体3,4ヶ月ルーティンで、1枚駄目になったら変えて。
TH: 大体どれぐらい着てるの?
KN: 3日に1回は着てる。
TH: そして靴下は....結構ロングなんだね、膝下だよねもはや。
KN: そういう靴下と意外と良いのないの。僕好きなやつもあるよ。でもそれが丈短くて、長くしたいものがある。ファミマのソックス。
TH: あれは確かポリなんだよね。素材にこだわりはある?どういう質感がいいみたいな。
KN: ちょっと厚めの方が好き。これは灼熱という靴下で、おばあちゃんとかが体温を下げないために履くやつ。
TH: その長さが好きでそれを履いてるんだ。
KN: そう。この質感は全然好きじゃない。
TH: じゃあ靴下、ロンT、Dickies。で、コートかブルゾン。
KN: そうね。セットアップで難しい感じだったらブルゾン的なものも。
TH: うん。着てるイメージある。シンプルな。襟はそういうスタンド?
KN: そう。襟は結構大きめの方が好き。フライトジャケットみたいな感じがいい。だから「th」の服のラインナップは、すごい好き。あのベージュのシャカシャカは長年使ってる。すごい良い。ポケットの位置も使いやすくて、サイズ感も大きめなのも良い。本当は今日も、玄関まで着てたんだけどね。
TH: これで多分大丈夫。
Artist Wardrobe Product
Tailored Work Pants (Artist Wardrobe / Keisuke Nakamura DAIKEI MILLS) / black
¥41,800
テイラード ワークパンツ。
(アーティストワードローブ / ケイスケ・ナカムラダイケイミルズ)ポリエステルと綿の混紡糸を高密度に織り上げた、ハリ感があり、タフなツイル素材。今シーズンより始まったアーティストワードローブシリーズ。初回はthとゆかりのある3人のアーティストとそれぞれのユニフォームを一緒に製作しました。設計事務所 「DAIKEI MILLS(ダイケイ・ミルズ)」の代表の中村圭佑氏とはワークパンツを製作。2タックのテーラード仕様のワークパンツは作業着としてももちろん、レザーシューズとの相性も良いアイテム。
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