
Artist : 細井美裕 / サウンドアーティスト
1993年生まれ。マルチチャンネル音響をもちいたサウンドインスタレーションや屋外インスタレーション、舞台作品など、空間の認識や状況を変容させる音に焦点を当てた作品制作を行う。これまでにNTT ICC、YCAM、国際音響学会(AES)、長野県立美術館、愛知県芸術劇場、日比谷公園などで発表。
2025年5月 バービカン・センター(ロンドン)にて新作発表予定。
TH:今聞くと、パンツだけでも駄目だし、上だけでも駄目。でも、ツナギってシーズン選ぶから上下セットアップみたいなことが良いのかな。
MH:そうですね。上下セットアップは嬉しいです。分かりやすく「ちゃんと」見えるから。ツナギは、上半身を取って腰で縛るのも良いけど、どうしても夏は暑いし。やっぱり私にとっての利便性に結びつけるなら、上と下が分けられた方がよくて、同時に、もしくは別のシーンではセットアップで見せたいという願望はすごいあります。
TH:うん、それは良さそう。楽に作業もできるけど、スマートなシルエット。ポケットも必要なだけあって合繊でケアもしやすい。ウォッシャブルだけど、インナーウェアのラインが気にならないぐらいの絶妙に肉厚のファブリックとか。
MH:素敵。例えば私は、thでもあったけど、大きなポケットの内側にメッシュ入っているだけで満足するんです。安心できるから。インナーのラインが他人に見えるかどうかっていう実際的な事実より、自分が気になるかどうかが問題で。
TH:そこの意識が、自分の集中力を変えるからね。
MH:うん。それだけでも愛用するんじゃないかな。でも、太郎さんとワードローブを考えていくにあたって、もし究極的に、実用的なものと見た目の二者択一で選ばなきゃいけないんだったら、見た目を選びます(笑)
TH:共存させたいよね(笑)。どの季節も着られる方がいいかな?
MH:もちろん、それはベストですね。詰まるところ、これまでの話の中で一番私が強く、一貫的に思っているのは、インストーラーや関係者の方たちに対する敬意というか……うーん、正確に言語化するのは難しいけど、私は一人で作品を作っていないという自覚にあるというか。自分が好きな作家さんって、そういうことをちゃんとしてる。
TH:そうだよね。美裕ちゃんの作品、あんまり一人で完結するもの少ないでしょ?
MH:厳密に言えば、全くないと言っていいかもしれない。なるべく自分でできるようにもなりたいと常に思っているし、心掛けているけど、例えば、インスタレーションの表現じゃないとコンセプトが達成できないこともある。自分が自分一人では作れないのを分かってるから、言葉で「こうしてくれ」って言うよりも、「この人、ちゃんとしてそうだ」と感じさせる力を持ちたいし、その姿勢で現場に臨んだ方が全体のクオリティが上がるとも思ってる。言葉で説明しても伝わらない部分があるから。
TH:“説得力”のような物だね。
MH:そうそう。あとは、「あの作家の作品をやったんだ」って周りの人に思ってもらえるようにならないといけないとも思うんです。作家が求心力を持つことも、チームで作る作品の場合、重要だと思います。
音と空間の関係。
TH:ところで美裕ちゃんは、出身はどちらですか?
MH:愛知県です。高校までは愛知で、勉強しかしてなかった。公立で、全然ファッションやアートもなく……音楽は私はいろいろ聴いてたけど、そのときはYouTubeで聞くくらいで別にそんなに深い興味はなかった。
TH:慶應義塾大学に進んでから、そういう方向に興味を持ったの? SFCだったんだよね。
MH:そうですね。大学行って、大学2年の終わりぐらいで、サウンドアートとかメディアアートとかを詳しく知りましたね。当時SFCには美術史の授業がなかったから三田キャンパスまで取りに行って、現場的なことはSFCで学ぶ、みたいな。2年の終わりぐらいかな。SFCは文理融合がテーマだから、ジャンルが横断してて、例えば、建築の授業も取れるし、医療系の研究室もあるし、音楽もあるし、コミュニティや政治の政策、起業とかそういうものもある。
TH:へえ。同級生にアート関連の人が、たくさんいるわけではないの?
MH:多くはないと思います。大山エンリコイサムさんは、お会いしたことないですがSFCです。
TH:そうなんだ。作家というよりは、企業系の方が多い印象。
MH:私も「作家になろう」と思ってなったわけじゃないんです。
TH:じゃあ、大学入ったときは作品制作をやろうとも思ってなかったということ?
MH:一切やろうと思ってなかった。ストレートに言うと“音楽が食えない"時代だって言ってるのを見てる世代でもあったから。ただ、SFCに入ったのは、高校のときにコーラス部で世界大会に行って金賞を取ったんだけど、あまりにも閉鎖的なコミュニティすぎて、フライヤーもおしゃれでもないし(笑)、プレイヤーとして続けるのはしんどいなと思ったことにも繋がってたりする。当時、音大の選択肢もないこともなかったけど、プレイヤーは“場所”を変えることはできないじゃないですか。言い方を変えると、コンサートを作る方が面白そうだなと思ったしプロデュースやマネジメントの道がSFCにはあるかもと思って志望したというのはある。
TH:でも“食うの大変そう"な方向には向かっていった。
MH:うん(笑)
TH:それ以前に、音と空間、もしくは場所っていうのに興味を持った具体的なきっかけはあるの?
MH:自分の記憶の中で今思ってるのは、コーラス部のとき。コンクール的に強豪校だったから全国各地のコンサートホールに行くんですね。そこで、1年生の時、謎の儀式を体験したわけです(笑)。会場入ったら一番最初に客席の一番前に行って、舞台から客席の方を向いてみんなで手をたたくんです。そのホールがどういう響きを持ってるのかをチェックするために。
TH:絶対に強いチームの感じしますね(笑)。
MH:でも高校1年生からしたら、見た目は、やばい宗教始まったみたいな(笑)。例えば、NHKホールは、放送局用のホールだから全然響かないんですよ。それを覚悟して歌うのと、知らないで歌って全然響かないのとでは全然違う。
TH:これから合唱を披露するための、覚悟でもあるし、コントロールでもあるんですね。
MH:そう。響かないことを知っているってだけで違う。私のインスタレーションって当然“空間ありき"で作ることが多いんですけど、それが多分、一番最初かな。原体験としては。
TH:現場でとことん調整をする理由にも繋がってるんだね。
MH:そう、思えばずっと同じことやってる(笑)。でもそれは、自分のキャラクターじゃなくて“場所”の特性を知って活かす大切さなんだと思います。
TH:コーラス部に入ったのは?
MH:高校の入学式のとき、武満徹の『さくら』という曲を合唱部が歌ったんですよ。それが、本当にかっこよかった。最初テナーがドレミで入って……。それまでピアノを習ってたぐらいで、歌も歌ってなかったんだけど、あっという間に引き込まれちゃった。合唱部のPRも上手くてね。「いけてない」って思われてるのを分かってるから、武満徹の後、5〜6人で組んだアカペラのジャズをやったの。そのギャップっていうか、「(合唱部を)オタクだと思ってたけど、こんなにかっこいいのやるんだ」みたいな。そのブランディングに負けて、そのまま合唱部に入って、そのまま代表までやったと。
TH:へえー。とても面白い。
MH:あの『さくら』を聞いてなかったら、全く違う人生だったと思います。覚えてる、今でも。
TH:武満さんのことを言う現代アートの世界の人多いよね。
MH:確かにそうですね。当時は武満徹なんて知らなかった。
TH:でも、知らなくても響く、いけてると思わせる何かがあるってことだね。
MH:うん。本当に自分がそうだった。当時の先生も不思議で、マリー・シェーファーとか三善晃とか現代音楽の合唱曲を高校生なのにやってたんだけど、私たちは彼らのことを何にも知らないんですよ。時を経て、大学で美術史の勉強をしたら「え、武満徹ってこんなすごい人なんだ!」ってなって(笑)。それって、先生のセンスであり、私に教えてくれたことの大きさだったんだなって、後から気づきました。
TH:高校の先生もマニアックな人だね。そのDNA的な部分に響くような、入口が良かった。
MH:うん。ただの良い話です(笑)。でも、最初に触れたもので変わるよね。いまだにこの話を人にできるのは、すごい良いなと思います。
TH:僕も最初にロンドンでファッションを学んだ大学は非常に保守的で、クラシックなファッションを教えるインスティチュートで、バーバリーのような当時はクラシックな印象のブランドのデザイナーを輩出するところだったんだけど、そこの大分年配の女性の先生がファッションに興味を持ったばかりの僕にラフ・シモンズを強く推してきたんだよね。1997年頃で、ラフのやっていることが大学で学んでいる事との方向性とは異なっていたから困惑したんだけど、自分もファッションを学ぶことを考えていた時期だったから、「ラフを見た方がいい」と言われた事と、マルジェラに興味を持っていた事が重なって「これだ!」と思いアントワープへ見学をしに行ったんです。その後結局、ロンドンの学校を辞めてアントワープに行くことになったのだけど。
MH:そういうこと、あるよね。原体験。
TH:繋がっていくからね。
MH:うん。合唱を“オタク"だとか言いながらも、声が重なってる音はものすごく好き。嫌いとか言いながらも、好きってこともある。意外と今でもそれをやり続けている感覚はあるんですよね。
TH:サウンドアーティストになるまでの道も知れて、冒頭で話してくれた現場での服装の話もぐんと解像度が上がりました。やっぱり、いかに自分が見られているのかという意識の問題、しかもそれが美裕ちゃん自身の話でもあり、インストーラーさんを含めた人や環境との関わりの話でもあるという点は本当に面白い。例えば、男性が同様の立場だったとして、着る服への意識も全然違うんじゃないかな。同じ意見は絶対に出てこないと思う。
MH:おお。なるほど。
TH:そういうユニークかつ明確な視点こそ“ARTIST WARDROBE"プロジェクトの大事なところなので。人によって違う、ということが。
MH:よかった。現場着でやったらめちゃくちゃ嬉しいな。かっこいい。
TH:でも、しっかり作ると、そんなに安くはならない。
MH:うん。それも大事なんだと思う。ちゃんと作られてるということも含めて着たいじゃないですか。人から見られるというのもそうだし、自分自身が着るものだから、自分に対しての敬意でもある。
TH:そうね。一度、アイテムを選定して提案しますね。ツナギの格好は好きなんだって言ってたよね。カラーパレットはどう?
MH:黒か紺とかなのかなあ。thのグレーも好き。
TH:例えば現場で、「自分に聞いてください」みたいな意味で、目立つ存在にならないといけないという必要性はないよね?
MH:ない。それは大丈夫です。
TH:うん。いいものができそうで楽しみ。
MH:私が一番楽しみだし、私の得でしかないですよ。(すでに完成されている第一弾のワードローブを見ながら)あと補足的ですが、蓮沼さんのサイレントコーティングされた服のように撮ってるときの“音”への意識とか、そういう直接的なものは、私の場合は違うかも。
TH:そうだよね。もうそのプロセスは終わってるんだもんね。
MH:うん。撮影の被写体としても、インストールの現場におけるアーティストとしてカメラの目以外でも異なる視点から自分が"見られる"ということ。
TH:その視点、結構、新しいよね。デザイナーとしても聞いたことはなかった。誰も気にしたことないというと言い過ぎかも知れないけど、意外と、何でもふとした感じの瞬間に「説得力が欲しい」っていうのは服に託されるところかもしれないね。とても良い話を聞けました。ありがとうございました。
MH:次のバービカンセンターの展示とか、現場で着られたら嬉しいです。本当に楽しみにしています。
TH:了解。それに向けて良いものを作りましょう。
Artist Wardrobe Product
Cargo Pants (Artist Wardrobe / MIYU HOSOI ) / black
¥63,800
カーゴパンツ アーティストワードローブ / ホソイ ミユ。
前シーズンより始まったアーティストワードローブシリーズ第2作品目。今回はthとゆかりのある2人のアーティストとそれぞれのユニフォームを一緒に製作しました。「サウンドアーティスト」の細井美裕氏とは作品展示の設営の際に着用するプルゾンジャケットとカーゴパンツの上下を製作。
しなやかで肌触りのいい風合いとスポーティな微光沢、ナチュラルなシワ感を持ち合わせたナイロン素材です。
特有のタフな強度はそのままに、繊維廃棄物から再生された原料を使用し、環境に優しいのも特徴です。
ゆったりしたシルエットで収納機能も高く、セットでは勿論、単体でも合わせやすくなっています。
本商品の取扱店舗
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その他の取扱店はStockistより各店舗にお尋ねいただくか、カスタマーサポートまでメールにてお問い合わせください。













