
Artist : 蓮沼執太 / コンポーザー
1983年,東京都生まれ.蓮沼執太フィルを組織して,国内外での音楽公演をはじめ,多数の音楽制作を行なう。主な個展に「Compositions」(Pioneer Works,ニューヨーク,2018),「 ~ ing」(資生堂ギャラリー,東京,2018)などがある。
また近年には「FACES」(SCAI PIRAMIDE,東京,2021)などのグループ展に参加。主なパフォーマンスとして、
『ミュージック・トゥデイ』(オペラシティ コンサートホール タケミツメモリアル, 2023)、『unpeople』(草月プラザ石庭 天国, 2024)。
第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
堀内(TH): th productsを10シーズンやっていて、すでに定番といえるものがある。その特徴は、僕自身の“ユニフォーム的なもの”がベースになっていること。そして、このコンセプトの先に位置付けている今回のプロジェクト“ARTIST WARDROBE”では、色々な作家さんのワードローブをインスピレーションにして新しいプロダクトを作りたいと考えました。今日は、蓮沼くんに自身の生活の中でお気に入りの5着を持ってきてもらったわけなんですが、改めて蓮沼くんを知ることも大事で……年齢39歳の作曲家であり、パフォーマーでもある。プロフィールで自身の職業は、どう名乗っているんですか?
蓮沼(SH): 音楽家。ミュージシャンとは言いません。
TH: 活動は音楽家である一方、インスタレーションも手がけている。たとえば、アーティスト、ミュージシャン、音楽家。その明確な境界は自身の中にあるんですか?
SH: 自分に関しては、単に、演奏のプロではないという一点に尽きる。自分で作ったものを、しょうがないから演奏して伝えているというか……
TH: 演者が完璧に揃ってたら、もしかすると自分は演奏してない?
SH: そうそう。2020年代に自分で演奏しないとか形式的すぎるし、もうちょっと自由でいいじゃんと思って。
TH: 活動は何年からやってるの?
SH: 音楽活動は21歳からかな? でも最初、何を活動の起点にするかといった特定のワードはなかった。いきなりMacのレコーディングアプリで作り始めたからね。
TH: 気になるのは、大学を卒業して音楽家として活動していこう、といった決意をどこかのタイミングでしたのか。それとも、浮遊しながら、いつの間にかここにいるの?
SH: 決意なんて、そんなの全くなかったな。
TH: 僕と同じだね。自分はアートから、大きな意味での“表現”の領域に入った。その延長線にある一つのチョイスが洋服だったから、今ここに着地しているだけ。アートを勉強して、興味のあることを続けていたらいつの間にかここにいた……。もし日本にいたら、ファッションが美術大学の中に入っていないから、服は作っていなかったと思うな。
SH: 俺も音楽っていうよりもアートかな。テクノでもないし、ロックでもないし、J-POPでもないし。
TH:音楽家というよりかは、そういった感覚が違うんだろうね。同時にカテゴリのわかりにくさもある。対外的な影響から、いつの間にかキャリアが始まっちゃっているという、そういうパターンは多いのかな。蓮沼くんの作品には色々な内容のものがありますよね。(写真家の)池谷陸くんが撮ってる最新のアルバムの内容も実験的。それぞれの制作プロセスは違うの?
SH: プロセスはほとんど変わらない。作品同士の距離が遠いかって言われたら割と近い。
TH: では、音楽をつくる理由というのは言語化できるもの?
SH: 音楽をつくる理由か……。さっき話したけど、いつの間にかフワッとやってる感覚だから、確固たる決意のようなこともないし、目的やゴール、意思だとかはあんまりない。でも、「ない」ということが、実はそんなに悪くないんじゃないかとも思う。「ない」から、やっているみたいな、矛盾しそうなところ……
TH: じゃあ、なぜ音楽を作るのか? あるいは、「こういうものが僕の作品です」という要素はあるんですか?
SH: (ほんの数秒ほど息を呑んで)そうね……。一つひとつにコンセプトというか、問題意識みたいなものがあって、音楽が、そういったものに自分なりの方法で向き合えるツールではあるんです。専門家じゃないから、たとえば、いきなり環境問題そのものには向き合えないけど、たとえば、フィールドレコーディングをやっていると、そこから環境にまつわることに繋がっていくことができる。つまり、ジャンルはないんです。何かインスタレーションをやっていて、その共通項を強制的に見つけ出すってのは結構難しい。だからアウトプットだけ見ても誰も気づかない。
TH: なるほど。強いていうなら、アート業界、音楽業界どっちにも体重がちゃんと平均的に乗ってるんですか? 蓮沼くんの曲ってエッジーなものもあるし、幅広いじゃないですか。比較的ポップに広く聞かれるものもあるし、かなり実験的なものもあるから、そこが結構捉えづらさもある。
SH: どっちにも乗ってないと言えるくらい、浮いてる。やっぱり浮いていて、たまに知ってる人がいるみたいな。そして、捉えづらいまま、ここまで来た。
TH: もしかしたら、作品を一言で表すとするなら、“独特”。
SH: 独特。言い当てているのかも。確かに変わってますね。よく媚びないでやってるなっていう感じは正直ありますし。
TH: 東京生まれだけど、ニューヨークにも行ってましたよね?
SH: アジアン・カルチュラル・カウンシルという、ニューヨークに若手アーティストを半年間送り込むというプログラムの一環ですね。1999年かな。その前に、北京とかジャカルタ、ナイロビとかにも行ってる。海外の影響はもちろんあって、知らないところに行ったら、当然、知らないものがたくさんある。だから、それらの存在そのものに気づくことができる。物質的なものだけでなく、環境の精度や、仕組みみたいなところにも。
TH: 色々なカルチャーを目の当たりにしたことが作品に与える影響は……
SH: ありますね。ジャカルタやナイロビに行くと、みんな、もう何でも楽器にしちゃう。本来は別の目的があって作られたものを、違う目的で使っちゃう、みたいなことが起こる。
TH: 蓮沼くんは東京人じゃないですか。東京的なこと、日本的なことってなんだと思いますか? 日本のファッションブランドもそうだけど、安直に、ミックスカルチャーみたいなものが東京性って言われたりすることも多いと思うけど……。
SH: 東京的……いやあ、マジでないな。そんなに東京に対して意識的に生きてない。アジア人のひとりだ、という自覚はあるけど、「自分は日本人だ」みたいなふうにはならないな。
TH: 強いていうなら、淡々としてるのが東京っぽい。あんまり感情的じゃないし、ドライで、あまり起伏がないよね。
「つくること」の根源。
TH: (蓮沼と堀内は、ショーを介してコラボレーションをしたことがあったが)毎日ファッション大賞(のショー)の音楽には、すごく色々な音が混ざっていていた。あれは全てひとりでやってるってことですよね。一方、フィルの場合はどうするの? レコーディングとかはそういうレコーディングスタジオに行って?
SH: そうですね。スコアも書いて、音を出して、練習もして、皆んなでせーので。
TH: 一人で行えることと、複数の人数ですることとは全然違う。スケジュールを合わせたりとか、細かいこと言ったら絶対いっぱい出てきますよね。
SH: 全然違いますね。やっぱり多くの人が関わると、一言でいえばコスパが悪い。でも、みんなメンバーと仲いいから、メンバーの変更とかはあまりない。
TH: それが珍しい。バンドとか3年で解散とか、2枚アルバムを作ってメンバー交代とかも多いじゃないですか。全体をコントロールし続けると大変だろうから、メンバーは流動的なんじゃないかなと考えていたけど意外と違うんだね。フィルは最初どうやって集まったの?
SH: メンバーは技術やセンスで選んでいるわけではなくて、選定基準は実はそんなにない。そもそも最初は自分のソロみたいな感じで電子音楽っぽいのをやってて、それをライブしなきゃいけないと。それで電子音を1個ずつ解体してアレンジしていって、生の楽器にアサインし直して、上演するみたいな。
TH: それは単発でやろうと思ったの? それとも、長期的にフィルとしてやろうと思ったの?
SH: 単発ですね。そもそも、僕の人生観だとか、考え方って、何か設計図がないんですよ。「5年後こうなって10年後こうなって15年後こうなって……」といったライフプランを考えているミュージシャンも多いんですけど、僕は全く考えてない。だから、とりあえず今、目の前にある面白いこと、自分の琴線に触れることをやる。
TH: 活動は一人でやれることも多いけど、やっぱり他人が関わる必要性のあるオーケストラという選択をする理由はあるのかな?
SH: 自分の音楽性だとかを抜きにして、人と集合し、何かをやるということは、「つくること」の根源のひとつだと思っているから。すごく大切なことなんじゃないかな。
TH: (堀内は深くうなずき)まさに、それこそがコラボレーションといえる。自分一人だけだと出てこない偶然性にも関わりますね。
SH: 「共同体」と「個」。ふたつのチャンネルを持っているということが大事。一人の活動ももちろん大切だし、他者と関わって何かをする作業も大切。フィルは他者を意識している。必然性をもって、他者のために書いてるから。
TH: そのメンバーは15人もいる、と。15人いたら、「15の音を活かさなきゃ」となるんですか?
SH: うーん。そんなふうにはならないけど、やはり「他者との関わり」があると意識はする。
TH: 具体的な、歌とインストの差はあるんですか?
SH: 社会にあふれてる音楽って、実はほとんどが歌じゃないですか。やっぱり音楽のジャンルとして歌はすごいなと思う。体の中から音を出して、喉を震わせて音を出すっていう行為を、作曲家はやったほうがいいとさえ思う。基本、音って何か触れてるので、そこで発生した音を使うことは取り入れていこうと最初から思ってた。
TH: 歌うって行為において、歌詞があると自ずと意味がついてくる。一方、蓮沼くんが自分の曲で唸り声とか、言葉ではない音だけで作ってる方がインストに近くてしっくりくるとも思ったんです。何かを叩く音と一緒ぐらいの感じで。僕は浅草で蓮沼くんがやったインスタレーションの印象がすごく強くて。ミュージシャンじゃないんだなっていうのを強く思ったからから、歌ってることがすごい意外に見えているのかもしれない。
SH: そうですね。まあいろんなことやってますよね。でも今やってるソロのやつとかはすごい好きで。
TH: 僕は最新作の「unpeople」収録曲に、すごく“蓮沼執太”を感じます。
SH: あれがみんなに人気と言われる。
TH: そうなんだ。でも、フィルの方が広く好きという人もいるのでは?
SH: どうなんだろう。やっぱり両軸があっていいし、それらとは別に、また何か生まれてくるのであれば、それはそれでいいんじゃないかな。コラボレーションっていうものに関しては積極的というか、消極的ではない感じです。
Artist Wardrobe Product
Recording Coat / Blouson (Artist Wordrobe / Shuta Hasunuma) / black
¥75,900
レコーディングコート。
(アーティストワードローブ / シュウタ・ハスヌマ)高耐久撥水性と撥油性を兼ね備えた、ナイロンタスランタフタは、抜群の水切れの良さを体感できる高機能素材。今シーズンより始まったアーティストワードローブシリーズ。初回はthとゆかりのある3人のアーティストとそれぞれのユニフォームを一緒に製作しました。音楽家の蓮沼執太氏とはコートを製作。ミリタリーコートをベースにフィールドレコーディングの際の着用を想定し、ペンポケットや大きめのポケットなど機能面にも考慮されたアイテム。
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